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週間日記(2024/10/21-10/27)

2024/10/21 Mon.

 朝、高速バスと新幹線を乗り継いで福岡へ戻ってきた。せっせと荷解きをして、溜まっていた雑用をちょこちょこと片付けた。
 こちらは地元とは比べ物にならないほど若者が多く、カップルも多い。手を繋いだり、腕を組んだりして歩いているカップルをよく目にするうちに、32年生きてきて初めてそういうもの(手を繋いで歩くカップル)に対して羨ましさを覚えて、自分でもとてもびっくりした。他人といるととてつもなく疲弊するけど、それでも誰か特定の親しい相手を作ってみたい。久し振りにそう思って、マッチングアプリを入れてみた。ところが、やっぱり自分からいいねをする勇気がない。当然、何も始まらない。シスヘテロのマッチングアプリで想定されている恋愛市場において、自分のような芋は圏外にいるだろう自覚はあるので、顔写真は載せていない。それでも、中途半端な個性しか取り柄のない自分のような妖怪からいいねが来ることで、嘲笑されるのではないかという恐怖がある。醜い容姿を恥じて人と関われない怪物の気持ちだ。好きなタイプとやらについて考えてみても、他者と関わった経験値が少なすぎて、いまいちぴんと来ない。「眼鏡をかけていたら親近感が湧くかも」「読書や園芸なんかの共通の趣味が何かあれば話が楽しいかも」とぼんやり考えてみても、「じゃあ自分自身でいいじゃん」と完結してしまうような項目しか思い浮かばない。自分とは異なる趣味や価値観を持つ他者と一定以上に親しくなる方法が分からないし、そういう未来も全く見えない。せっかく福岡市内に住んだのだから冬にはクリスマスマーケットに行ってみたいけど、一人で行った所でカップルの多さに恐れをなし、ろくに楽しめもせず尻尾を巻いて逃げ帰るであろうことだけは確実に分かっている。マッチングアプリをする勇気が出ないからカウンセリングを受けるというのも馬鹿々々しい気がするけど、仕事が長続きしない原因と同じ「人と関わりたいけど関われない」という問題が根本にあるので、そう思えばカウンセリングを受けるに値する理由と言えなくもない。臨床心理士による対面のカウンセリングは、ちょっと調べた限りでは1時間程度10000円と高額だったので、受けるとしたら5000円で済むオンラインのものが良いだろう。果たして、積年の悩みがカウンセリングで改善するんだろうか。もう諦めてそういうものだと受け入れてしまった方が楽になるのかもしれない。でも、特別に親しい誰かと手を繋いで歩いてみたい。どうすればいいのかなあ。

2024/10/22 Tue.

 就労移行支援の体験の2日目。提案された作業をする合間に、何もすることがない時間がちょこちょこ発生して、それが苦痛だった。元々「何もしないでいる」状態で過ごすことはとても苦手だ。手元にあるパンフレットはとっくに読み尽くしたし、手頃な場所に読む文字もなければメモに書くような内容もなく、本当にすることが何もない。スタッフさんの手が空いた隙を狙って「終わりました」と報告しに行き、次は何をすれば良いか尋ねるものの、「休憩とかしなくて良いですか?」と訊かれ「勘弁してくれ!」と内心叫びたいような気持ちだった。もう十分休憩時間は取ったし、そもそも他人がいる空間で休憩すること自体が私には難しい。暇ってこんなにつらいんだ…。今日やった作業といえば、パソコンのデータ入力練習プログラムのようなもので、表示されたアンケート画面の文字を入力したり、画面上の顧客伝票と入力画面を見比べて入力欄にある間違いを探して修正したりというようなものだった。タイピングの正確さと速さは問題ないはずだと自分では思っているし、誤字脱字を探すのも本を読む時にしばしば見つけるから得意な方ではあると思う。こういう仕事の求人があるなら、業務内容だけなら大丈夫なのではと思うけど、他人がいる静かな空間で一日これをやれと言われたら話は変わってくるだろうな。働くとなると逃れられない条件ではあるだろうものの。
 先日受検した「タイピング技能検定イータイピング・マスター」1級の合格認定証が届いた。長文が心配だと思っていた割には、普通にちゃんと合格できた。イータイピングはともかく「マスター」という名前が、なんだかポケモンマスターやアイドルマスターを思わせて、資格の名前としては少しシュールな気がする(オタクだからそう思うだけかも)。

2024/10/23 Wed.

 九州国立博物館と太宰府天満宮に出かけた。電車に乗り慣れていないから、電車に乗ると妙な特別感があってうきうきする。太宰府天満宮は外国からの観光客がとても多く、境内も参道も賑わっていた。お守りを販売している所で、Twitterで知って気になっていたお守り「菓子守」を購入した。「製菓業に励む方々のご活躍とご繁栄、そして素敵なお菓子との出会いを祈願したお守り」とあり、和洋菓子のイラストが描いてあってとてもかわいい。お守りという物を買ったのは、おそらくこれが初めてな気がする。食い意地が張っている自覚があるので、これ以上ないお守りだと思う。せっかく神社に来たのだからと浮かれて、つい恋愛おみくじなるものまで引いてしまった。「吉」と出た。おみくじを引いた経験自体あまりないので、大吉よりは悪く凶よりは良いのだろうということくらいしか分からず、中吉や小吉、末吉などと並べるとどういう順番になるのかも分からない。それよりも、結婚と異性愛が前提に書かれた内容に「うわっ」と思ってしまった。婚姻制度を利用するタイプのシスヘテロのみが対象だと、どこかに注意書きでもしておいてほしかった。クィアみくじとかないんだろうか。
 九州国立博物館に行く時の長いエスカレーターは、いつ来てもわくわくする。ガラス張りの大きな建物が見えるとさらに。歴史が得意な訳ではけっしてないけど、土器や青銅器、埴輪、仏像、古文書などを眺めるのはおもしろかった。人類の長い歴史を思うと、自分の短い一生における悩みを一時的に忘れられるような気がする。確か中学生の時に修学旅行で初めて訪れた時にもあったはずの、白檀や丁子などの香木の香りを実際に嗅ぐことができるコーナーや、かっこいいと思ってここでそのキーホルダーを買った三角縁神獣鏡の実物を見られて懐かしかった。当時一番印象に残った、フリーメイソンのモチーフが象られた螺鈿細工の箱だったかは見ることができなかった。私が見逃しただけか、収蔵庫にいるのか。ゲーム「刀剣乱舞」の私の最推しの刀は細川忠興の刀なのだけど、館内をうろうろ見て歩いていたら細川忠興の書状があってびっくりした。まさか博物館に来て、突然公式からの供給があった時のオタクの気分になるとは。
 ミュージアムショップまでしっかり堪能して、神社の敷地内にあるお店で親子丼と梅ヶ枝餅を食べた。どちらもおいしかった。お店を出る時に、梅ヶ枝餅を焼いてくれた店員さんの前を通ったので、ちょっと勇気を出して「おいしかったです」と伝えると「また来てね」と言ってもらえた。すごく嬉しかった。コミュニケーションが取れたのももちろん、年上の女性から、気さくに敬語抜きで年下扱いしてもらえるのがまた嬉しい。参道のおみやげ屋さんや雑貨屋さんを覗き、ソフトクリームの誘惑と闘い、電車と地下鉄を乗り継いで帰宅。

2024/10/24 Thu.

 就労移行支援の体験3日目。事業所の部屋で過ごした時間の半分は、何もすることがない虚無の時間だった。本当に、本当に何もすることがなく、ただただスタッフさんに話しかけられるタイミングを待つだけの、虚無。ぼーっとすることが苦手な私に、ぼーっとするための訓練を強いているのかと勘繰りたくなるほどだった。私はまだ正式に利用している訳ではないし、忙しいスタッフさんの手を煩わせるのも申し訳ないからこうして「今なら話しかけても大丈夫そうかな」という機会を窺うしかないけど、これが実際の仕事だったらまたややこしいんだろうな。人と時と場合によって、「忙しいから後にして」とも「分からないことがあるならすぐに訊いて」とも言われるんだろう。今日の作業は手先を使う作業だった。内容は、指定された色と個数のアイロンビーズを小さなチャック付きポリ袋に入れる作業と、これも決まった色と位置のゼムクリップを紙に留める作業。集中して黙々と業務に取り組めるか、自分で適性を見るような目的があるらしい。なんとなく、賽の河原で石を積んでいるような気分で作業をしていた。実際、親より先に死のうとしたのだから、地獄があるなら実際に賽の河原で石積み作業に励んでいたかもしれない。手芸をするから手先は多少は器用だろうという自負があるし、黙々と集中して作業することもできるどちらかといえばできる方だと思う。でも、正式にここの就労移行支援を利用して、もし毎日この作業だったらちょっとつらいだろうなと思う。仕事で満足な給与が発生するならともかく、「本当にこれをしていて就職に繋がるんだろうか」という不安や疑心暗鬼がどうしても付き纏うだろう。タイピングの練習にしてもそうだ。でも、業界最大手らしいここでこういう感じなら、他も似たり寄ったりだろうとは思う。家から近いし、雰囲気も悪くはなさそうなので通うならここがいいと思っており、正式に利用するつもりではいるけれども。プログラムの豊富さが売りのひとつだそうなので、これ以外にも作業内容があるはずだと信じたい。
 虚無と石積みに疲弊して、何か楽しいことをしたいと思い、「公園で本を読む」という一度やってみたかった行動にチャレンジしてみた。スワンボートが泳ぐ広い池を前にしてベンチに座り、日差しと風を浴びるのは気持ち良かった。パン屋さんで買ってきたパンを食べ、池の水面に時折現れる亀の写真を撮り、持ってきた本のページをめくった。直射日光の下にいるとそれなりに体力を消耗するので、たくさんは読めなかったけど、精神面のエネルギーを回復するにはとても良い時間を過ごせた。かなり大所帯な外国人観光客の団体が来ていて、私が端に座っているベンチで写真を撮ろうとしていたようだったので、他人(私)が写り込まないよう席を譲ってみた。色々話しかけてくれた内容は、中国語(多分)だから全然分からなかったけど、その中で日本語の「ありがとう」を言ってくれて、すごく嬉しかった。観光客グループが中国の国旗を掲げているのをその後に見たので、私も「謝謝」と言えば良かったなと思った。池を泳ぐ大きな鯉を見て、すぐ近くにいた中国人観光客の人と顔を見合わせて笑ったのも嬉しい体験だった。言語が通じなくても、国籍が違っても、鯉のデカさにはしゃぐという共通の楽しさを分かち合える事実がむしょうに嬉しかった。旅行に来た先で一人の日本人を嬉しい気分にさせてくれたあの人達が、観光をうんと楽しめますように。
 昨日「大濠公園の敷地内にきのこが大量発生している」というネットニュースを見たので、読書の後はその辺を散策した。残念ながらきのこの大半はもう狩られて(職員さんに取り除かれて)しまっていたのでなかなか見つからなかったけど、タマゴテングタケとウスキテングタケ、ハエトリシメジっぽいきのこが生えているのを発見して興奮した。それから、松ぼっくりやくぬぎ、スダジイ、種類の分からないやたら大きなどんぐりなどがごろごろ落ちていて、これもテンションが上がった。どんぐりや松ぼっくりを見て楽しい気持ちになれると、私もまだ完全につまらない大人になり下がった訳ではないなと妙な安心感が湧く。自然といっても都会の中でしっかり管理された雑木林だから、本当の自然というやつはもっと雑草や蔓が生い茂って鬱蒼としているんだぞ、こんなこぎれいなもんじゃないぞと変な対抗心を燃やしてしまう。それでも、やっぱり緑の木々の枝葉を眺めながら歩くのは気持ちが良かった。また来よう。できれば雨が降った翌日に。

2024/10/25 Fri.

 二度寝を繰り返して、結局11時間も寝た。こんなに寝ることができるのかと、自分の可能性に驚いている。
 徒歩15分のちょっと充実したスーパーで買い物をして、一旦部屋に荷物を置き、それから徒歩10分の小さいスーパーに行ってミネラルウォーターや牛乳などの重たい物を買ってきた。本当に一人暮らしの量なのかと疑いたくなるような食材を買い込み、リュックサックが重たくて後ろにひっくり返りそうだった。自炊を頑張ろうという意欲に満ち溢れている。
 朝ごはんに食べるトマトスープや、晩ごはんに食べるかぼちゃのグラタンを作り、すぐ使えるように種類ごとに切ってポリ袋に入れたものと、一食分の鍋を作るための切った野菜の詰合せとを同じくポリ袋に入れて冷凍した。実家でならもっとうんと早く終わるような作業内容だったけど、3時間も台所に立っていたらしい。まだ慣れない調理環境ではあるものの、物が揃って随分使いやすくはなった。

2024/10/26 Sat.

 行ってみたいと思っていた福岡市植物園に出かけた。地下鉄の駅から徒歩15分程度なら余裕で歩けるなと調子に乗っていたら、道程の半分くらいは上り坂だった。舐めていた。動物園は本来の生息地から離れた狭い檻の中に閉じ込められている動物が気の毒に思えてあまり好きではないので、ほとんど素通りした。他の動物に食べられる危険性がなく、食事も十分に与えられ、怪我や病気をしても適切な手当てをしてもらえるという点では野生の状態よりずっと良い暮らしをしていると言えるから、かわいそうだと思うのは単なる私の思い込みにすぎないかもしれないものの。植物園は動物園を通り過ぎてさらに坂を上った場所にあり、辿り着く頃には汗をびっしょりかいていた。秋だからそろそろ薄手のニットを着たいと思っていたけど、着てこなくて本当に良かった。雑木林のように植えられた樹木の中を歩き回り(ここも階段だらけで足腰が鍛えられた)、蚊に刺されたりオドリコソウの葉を食い荒らす大きな毛虫に慄いたり、園内の地図と睨み合って自分の現在位置を把握しようと努めたり、冒険しているようで楽しい散策だった。温室は想像以上に充実していて、コウモリランやヒスイカズラ、カスタノスペルマム、ベニヒモノキ、ヤコウボク、コーヒ―ノキ、バニラ、アセロラ、パパイヤ、マンゴー、グァバ、ジャボチカバ、ジャックフルーツ、パイナップル、三尺バナナ、ウツボカズラ、ムシトリスミレ、モウセンゴケ、ベゴニア、フクシア、オオオニバス、犀角と色々な植物があった。春に大阪の咲くやこの花館でも見たけれど、一年の内にまさか二度もキソウテンガイを見る機会に恵まれるとは思わなかった。ここでもタビビトノキは温室の屋根にぶつかっていて、ガラスの天井(比喩ではない)をぶち破りそうな勢いで生長していた。それにしても、自宅から数十分の場所にこんな植物園があるなんて最高だ。帰りは下り坂ではあったけど、近くのバス停まで行く便があったのでバスに乗った。地下鉄はいくらか乗り慣れてきたつもりではあるけど、バスはやっぱりまだ慣れない。狭くて他人との距離が近いし、座席の確保は難しいし。
 夕方、注文していたメタルラックが届いた。観葉植物の鉢植えを並べるために購入したもので、今月は引越で随分お金を使ったのに、生活必需品でない大きな買い物をまだするのかと散々悩んだ挙句、収納家具を買わないことにはいつまでも部屋が片付かないからと言い訳して注文した。狭い部屋でなんとか組み立てて、窓際に置き植物を並べると、これがとても良かった。自分の好きな物をぞんざいに扱っている感じがなくなり、きちんと大事に扱っているように思えてすごく良い。私は私の好きな物を大切にしていると目に見えて分かる。もちろん、床の一角に段ボールを敷いてぎゅうぎゅう詰めに置いていた時より、はるかに見栄えも良い。これは良い買い物をした。

2024/10/27 Sun.

 タクシーを利用してリサイクルステーションまで行き、潰して束ねた段ボールを2束分処分した。すっきり。
 それから、ずっと楽しみにしていた文学フリマ福岡10に出かけた。会場は博多駅から徒歩10分ちょっとの場所にあり、地図アプリを見ながら向かう途中、「もしかして文学フリマに行く人かな」と思うような人達が何人か近くを歩いていた。同人誌の即売会に行く時の懐かしい感じを思い出して、すごくテンションが上がった。会場に入ると、創作意欲と個性に満ち溢れていて、そこにいるだけでわくわくしてくるような場所だった。あらかじめWebカタログで目ぼしいブースはチェックしてあったので、印刷してそれらを書き込んだ配置図を見ながら本を買い求めた。見本誌コーナーで見たらおもしろそうなものもあって、それも買った。本の作者に「こんにちは、これください」と声をかけて直接購入する感覚が10数年ぶりくらいで本当に懐かしかった(即売会に参加した回数は片手で数えられるくらい少ないけど)。一言二言とはいえ会話をすることもあって、人と話すのって楽しいな、しかも創作に関する話題ができるなんてと感動したくなった。こういう時、私は人と関わることがとても苦手だけど、嫌いという訳ではないしむしろそれを求めてはいるのかもしれないと気付かせてもらえる。この日のために用意しておいた小銭を思ったよりも多く使い、10冊ほどの本をほくほくしながら持ち帰った。文学フリマ、良い文化だなあ。冬の東京一人旅では文学フリマ東京39にも行くつもりなので、こちらもとても楽しみ。
 部屋に帰り着いてから、さっそく今日手に入れた本を何冊か読んだ。どれも個性的でおもしろくて、私も絶対に近い将来こういう本を作るんだ、本作りを趣味にするんだという創作意欲が掻き立てられた。