苗床

菌床じゃないよ

週間日記(2024/02/12-02/18)

 

2024/02/12 Mon.

 『くらしのアナキズム』(松村圭一郎、ミシマ社)を読み終わった。すごくおもしろい本だった。去年は本がめっきり読めなくなってしまって、月に一冊も読まない時があり、本好きというアイデンティティをなくしてしまったかとすごく焦ったし落ち込んだ(読書は冊数を稼げばいいというものではないけども)。ところが、今年に入ってから4冊も本を読み終えることができた。小難しい専門書ではなく、なるべく読みやすそうな本を選んでいるというのもあるけど、また活字を読んで楽しめるようになったことが本当に嬉しい。

 

2024/02/13 Tue.

 zoomで2回目のオンラインカウンセリングを受けた。まだあまりこれといって手応えがないけど、まずい感じはしないので続けてみたい。カウンセリングの最中にメモを取っていいものか訊き損ねていて、いつもカウンセリングが終わってから内容を思い出して書き起こしている。精神科で臨床心理士の先生にカウンセリングを受けていた時もそうしていたけど、その頃よりもメモの量が格段に少ない気がして、自分の記憶力が衰えているんじゃないかと不安になる。まあ、記憶力が上がってはいないだろうな。

 明日のバレンタインにかこつけて、チョコレートのシフォンケーキを作った。しっとりふわふわの焼き上がりで満足。

 

2024/02/14 Wed.

 日本フィルハーモニー交響楽団(日フィル)の演奏会を聴きに行った。曲目は、モーツァルト作曲の歌劇「皇帝ティートの慈悲」序曲、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調、ベルリオーズの幻想交響曲だった。1曲めのモーツァルトと、ヴァイオリンソロのアンコールは知らない曲だった(ファジル・サイ作曲「クレオパトラ」という曲らしい)。メンデルスゾーンは、聴いてみるとすごく聞き覚えのある曲だった。幻想交響曲は大好きな曲なので、これを聴きたくて今日の演奏会に来たようなもので、生のオーケストラで聴くと一層おもしろかった。普段聴くCDでは分からない、「このパートはこういうことをやっていたのか」と分かる感覚もおもしろく、4楽章の後半と5楽章の最後でパーカッションが大暴れしている辺りは特に楽しかった。この曲についてベルリオーズ自身が書いた説明がパンフレットに紹介されていた。

 病的な感受性と激しい想像力をもった若い芸術家が、恋の悩みに絶望してアヘン自殺を図る。しかし服用量が少なくて死に至らず、奇怪な一連の夢を見る。恋する女性は1つのメロディーとなって何度も彼の前に現れるが、ついに彼は夢の中で彼女を殺し、悪魔の饗宴に身を置く。

 個人的に「神経質で内向的でプライドの高いインテリ青年が夢破れ恋に破れ悩み苦しみ憂鬱、苦悩、煩悶、葛藤など鬱屈とした感情をこじらせた挙句精神に異常を来たしやがてゆっくり破滅に向かっていくような文学作品」がとても好きなので、曲を聴いたのはもちろんのこと、作曲家による説明書きを知ることでますますこの曲が好きになった。アンコールも同じくベルリオーズ作曲の「ラコッツィ行進曲」で、曲名は知らなかったけど、曲自体は聞いたことのあるものだった。オーケストラを見たり、オーボエの音色を聞いたりするとやっぱりまだそわそわ、ざわざわするものがあるけど、それでも演奏会を楽しめたのは良かった。

 

2024/02/15 Thu.

 ゆうちょ銀行のアプリを起動すると、障害基礎年金の遡及請求した分(5年分)と、今月と来月の分を合わせた金額が振り込まれていた。自分の口座にこれだけの額があるのは久し振り、ともすると初めてかもしれない。これでオンラインカウンセリングを続けられるし、皮膚科にも行ける。医療ってお金がかかるな。穀潰しの自分が生きていくのにお金が発生することに申し訳なさを覚える。そう思わせてくる社会への憎しみで、なんとか生き延びてやりたい。「生きるのにはお金が要るけど、生きているとお金が入ってくることもある」と母がいつか言ってくれたのを思い出した。本当に、生きているとお金が入ってくることもあるなあ。

 歩いてスーパーまで買い物に行く。菜の花が満開だった。

 『死ぬまで生きる日記』(土門蘭、生きのびるブックス)を読み終えた。ずっと気になっていた本だけど、カウンセリングを受けて良い方へ変化していく人に嫉妬しそうで読めずにいて、最近自分もオンラインカウンセリングを始めたので気持ちに少し余裕が生まれてようやく読むことができた。すごくいい本だった。自分がカウンセリングを受けた時のことは四コマ漫画に描いていたけど、人のカウンセリングの様子を知るのもまた新鮮でおもしろい。なるほどと頷く箇所があったり、共感して涙が出るくだりがあったり、深い内容なのにすっと読める作品でとても良かった。人それぞれとはいえ、自分はこれからこういう充実したカウンセリングを受けられるんだろうか。著者のように変化できるだろうか。度々出てくる「宿題」をぜひ参考にしてみたい。

 

2024/02/16 Fri.

 昨日読んだ本に影響されて、「今日あった3つのいいこと」を書こうと思っていたのに、夕べは睡魔に負けて寝てしまった。夜になると眠くなって自然に寝つけることの喜びやありがたさはつい忘れがちだけど、「自分は自力で眠ることもできなくなってしまったんだろうか」と不安になりながら導眠剤を飲んでいた頃の自分からすれば、どんなに羨ましいことだろう。

 朝から洗濯機を3回回して、その間に家じゅう掃除機をかけ、猫の皿を洗ったりトイレの砂を替えたり、観葉植物と庭の鉢植えの水やりもして、せっせと動き回ることができた。働いていないことに罪悪感があるので、こうして家のことをちゃんとできる日は少し安心する。

 読んだ本のメモや引用を、パソコンで入力した。丁寧なアナログの読書ノートをつけることに強い憧れはあるものの、書き写したい内容が多すぎて手書きだとかなりの手間になるので、結局Wordのファイルにがたがたと打ち込むのが一番合っている気がする。

 残っていた生クリームを使って、チョコレートサラミを作った。くるみとマシュマロを入れて、見た目はともかく味はおいしくできた。

 

2024/02/17 Sat.

 午前中はせっせと家事をする。

 一昨日読んだ本に影響されて、なんとなく食指が動かなかった認知行動療法を見る目が変わったので、アプリを入れて取り組んでみようと思った。ところが、「認知行動療法」と検索して出てくる有名どころのアプリ2つはどちらもAIとのチャット相談を売りのひとつにしているらしく、AIごときに訳知り顔で意見されたくないなと反発心がもたげてしまう。しかも、片方のアプリには「公認心理士」という誤字があり、これがまた癪に障る。一応インストールしてちょこちょこ操作してはみたものの、なかなかお高い課金プランでないと大した機能は使えず、すぐにアンインストールした。

 『暮らしの図鑑 フィンランド時間』(吉田 Öberg みのり、⁠⁠翔泳社)を読み終えた。載っている写真がどれも美しくて、見ていて楽しかった。

 

2024/02/18 Sun.

 熊本市内へ遊びに行く。熊本駅前から通町筋まで市電に乗ろうと思ったら、熊本城マラソンの影響により今日だけ16時まで運休だった。そんな。代わりのバスは出ているらしいけど、バスって乗り場がややこしくて苦手だし、バス乗り場には大勢の人が次の便を待っている。これに自分がすんなり乗れる訳がない。Google Mapを見ると、絶対に行きたい上通の長崎書店までは徒歩40分とあった。昼過ぎまでアミュプラザだけで時間を潰すのはもったいないと思い、意を決して歩くことにする。市電の線路に沿って歩いていると、向かいから来た人に「熊本駅はこっちの方向で合ってますか」と訊かれた。合ってますよ、市電の線路に沿って行くと着きますよと精いっぱいにこやかに答える。基本的に人と話すことには苦手意識があるので、スムーズに回答できたかは怪しい。さらに少し歩くと、また別の人から同じ質問をされた。さっきと同じ内容を返して、今度は別れ際に「お気を付けて」と付け加えた。よく知らない土地で道が分からない時にどれだけ困ることか、その苦しさはそれなりに知っているつもりなので、どちらの人も無事に辿り着けているといいなと思う。「優しそう」だか「道を教えてくれそう」だか、「この人なら大丈夫だろう」と見做されて見ず知らずの人から道を訊かれるのは、結構嬉しいかもしれない。私は地図を読むのが苦手だし、口頭で説明するのも下手だけど、なんだかいいことをしたような気分になれてこちらのほうこそお礼を言いたくなる。それにしても、都会の花壇は花が丁寧に植えてあっていいな。色とりどりのビオラ、ムスカリ、ヒヤシンス、水仙、雪柳の花が咲いていた。私が住む田舎でよく見る、伸び放題のツツジの隙間からイネ科の雑草が生い茂っているような草むらとはあまりにも違いすぎる。

 無事に私も目的地の長崎書店に辿り着く。本棚のあちこちにおもしろそうな本が並んでいるうえ、私の大好きな『庭仕事の真髄 老い・病・トラウマ・孤独を癒す庭』や『意識をゆさぶる植物 アヘン・カフェイン・メスカリンの可能性』などの本もあって、センスがいいなあと思う。こんな本屋さんが地元にあったらどんなにいいだろうと思う。散財が止まらなくなるのでそれはそれで困るけども。気になっていた『差別はたいてい悪意のない人がする』(キム・ジヘ、大月書店)と『ティンダー・レモンケーキ・エフェクト』(葉山莉子、タバブックス)、我が家の猫達に似た猫が描かれたポストカード2枚を買い、ほくほくしながら店を出る。

 早めにお昼ごはんを食べようと思い、近くのドトールに入る。カフェや飲食店の中でも、ドトールは良い意味で敷居が低くて助かる。大学時代に就活の合間によく食べていた、ツナチェダーチーズのホットサンドを注文。本当はコーヒーが飲みたかったけど、出先でお腹を壊すとまずいので飲み物はアイスティーにした。コーヒー、大好きなのになあ。腸だけがカフェインを受け付けてくれない。店内の隅っこにある奥まった席を見つけて、とてもありがたく思いながら座る。社交不安障害の症状は昔と比べて随分ましにはなったけど、やっぱり人目につかないほうが格段に落ち着く。

 Newsの3COINS+、HAB@のスタンダードプロダクツを覗いて、猫用のトンネルを探した。見つからなかった。家にある物はふくちゃんが遊び倒してぼろぼろになっているので、いい加減買い替えてやりたい。

 COCOSAでやっていた「スイーツと珈琲とうつわ」で、バーチ・ディ・ダーマらしきチョコクッキーと、狼のイラストがパッケージにプリントされたドリップコーヒーを買った。ゲーム「魔法使いの約束」が大好きなオーエン推しの人間としては、これは買わずにはいられなかった。化粧品のお店の傍を通り過ぎて、そろそろ詰め替え用を買わないといけないフェイスパウダーを買おうか迷って買わなかった。容姿に並々ならぬコンプレックスを抱いているので、きらきら眩しい街中の化粧品売り場に足を踏み入れるのが難しすぎる。

 カリーノ下通の蔦屋書店を物色する。欲しい本を店内の検索機器で探そうと思ったら、機械は撤去されており、TSUTAYAのアプリに置き換わったとの貼り紙がしてあった。滅多に来ない店舗のためにわざわざアプリをその場でインストールするのが面倒くさすぎる。何でもデジタル化すればいいってもんじゃないんだぞ、デジタル大臣にもそれ言ってやりたいな。内心腐りながらアプリを入れて、検索する。欲しい本の在庫はなかった。KALDIを眺め、@cosmeストアに行くも、またしても化粧品を買い渋り退散。1,000円代の本はお手頃価格だと感じるのに、顔にはたく粉に1,000円も2,000円も出すのがためらわれる。お金をかければ劇的に改善されるような面じゃないし、本は読んで楽しめるけど、フェイスパウダーは別に楽しくもなんともない。私は外見よりも中身に出資するのだと哀れにも強がってみている。本屋さんに入ると水を得た魚になれるのに、きらびやかなデパコスのフロアやレディース服売り場を通るとなると、地上に出てきてしまったモグラの気分になる。

 そろそろ熊本駅に向けて歩き始めないとな、でもさすがに足が疲れたな…と思っていた所、並んで停められたシェアサイクルサービスの真っ赤な自転車が目に留まった。検索してみると、熊本駅前にもポートがある。自転車は多分乗れる。歩くのはもう疲れた。思いきってこの自転車を利用してみた。慣れない電動アシスト自転車は重くて漕ぎにくかったけど、なんとか駅前まで辿り着いた。90円の利用料金と引き換えに、時間と体力を節約できた。こういうものがあるから、やっぱり都会っていいなあ。

 電車に乗るまでまだ時間があるので、ステラおばさんのクッキーでクッキーを10枚、キタノエースでミルクジャムを買った。座って休憩したくなり、シアトルズベストコーヒーでレモンのイタリアンソーダを飲んだ。疲れた時の炭酸っておいしい。

 帰りの電車に乗り込み、運良く席に座れたと思ったらたちまち満員になった。他人との距離が近くて、人間が密集している光景に息が詰まりそうになる。前言撤回、都会なんか羨ましくない。こんなものに毎日乗っていたら心が荒んでしまう。薄くて持ち歩きやすいからと選んで持ってきたオルダス・ハクスリーの『知覚の扉』を読み始めると、隣に座っている人も何かの本を取り出して読み出した。見ず知らずの他人と並んで読書をしているのがなんだかユーモラスというのか、おかしく思えておもしろかった。何の本を読んでいるのかとても気になったけど、もちろん尋ねる勇気などないので、大人しくハクスリーの述べるカーネーションや服の皺についての評を目で追った。

 夜、さっそく『ティンダー・レモンケーキ・エフェクト』を読む。本の帯にある「恋をした」という文字を店頭で見落としていて、しまった、男女の恋愛ものは苦手なんだよな、ととっさに思う。それでも、この本は読みやすくておもしろい。男女の恋愛ものが苦手な理由について、今の日本社会がシスヘテロ同士の恋愛こそ至上のものだとみなしていて、そうでないマイノリティの恋愛あるいは恋愛をしないあり方を尊重できていないことが、私のこの苦手意識の由来する所だと思う。シスヘテロの男女は結婚できるし、婚姻制度を利用できない/しない人々が晒される差別や偏見を向けられることもない。特権階級への個人的なやっかみと言えばそれまでだけど、もっときちんと考えて言語化したら、自分でも納得のいく理由を形作ることができるような気がする。

 本を半分近く読んで、今日の日記を書く。さっそく影響されて、こういう長い日記になった。