苗床

菌床じゃないよ

大阪一人旅日記 その1

 まずは高速バスに乗り、空港へ。景色を見ているだけでも楽しく、初めはわくわくしながら窓の外を眺めていたけど、さすがに山と木ばかりの風景が続くと眠くなる。乗り過ごさないよう、到着予定時刻より少し早めの時間にスマホのアラーム(バイブレーションのみ)を設定して寝た。

 空港に到着。飛行機に乗るのは昼前なので、まだ時間がある。大阪に着いてから博物館を見る時間を少しでも多く確保したいので、今のうちに何か食べておきたい。でも、お昼ごはんにはまだ早いのであまりお腹が空いていない。ドトールに入って、温かい紅茶とかぼちゃのタルトを注文した。せっかくだからほとんど行ったことのないロイヤルホストに行って大きいパフェでも食べれば良かったかもしれないものの、ドトールだって地元にはない。久し振りに食べたかぼちゃのタルトはやっぱりおいしくて、文学部の学生時代に時々食べていたのを思い出して懐かしかった。

 

 搭乗手続きをしてキャリーケースを預け、保安検査場も無事通過。ロビーや搭乗ゲートのあちこちに、洋蘭、ポトス、アンスリウム、カランコエ、シダ類、ヤシっぽい植物などが植わった手入れの行き届いた立派な寄せ植えがあって、たかだか観葉植物といえどお金と手間がかかっている様子に舌を巻いた。空港ってすごいや。

 おそらく10年ぶりくらいに訪れた空港という場所の非日常感が楽しくて、広いゲートを不必要にうろうろする。これから乗る飛行機が窓の外に姿を現したので、思わず写真を撮った。撮影しているのは私だけじゃなく、他にも2,3人の人が撮っていた。やっぱり撮りたくなるよね。

 機内に乗り込み、滑走路へ!いつ機体が飛び始めるかと、宙に浮く瞬間を今か今かと待つのも楽しい。

 

 座席選びはやや失敗してしまった。窓から見える景色の半分が飛行機の羽で埋まってしまったのが少し残念。でも、よく晴れていて空がきれいだった!

 飛行機に乗ると必ずといっていいほど耳が激痛に襲われるので、今回も少しひやひやした。上昇している時や、普通に上空を飛んでいる時は痛みはないものの、着陸に向けて降下し始めるにつれどんどん痛みが増し、「今度こそ鼓膜が破れるのでは」「現地で耳鼻科を探さないといけなくなったら」と毎回はらはらする。ところが、練習のすえ先日ようやく習得した耳抜きを実践し(上手くできた!)、その他にもあくびをする、水を飲む、飴を舐めるなどの対策を取った結果、なんと全く痛みがなかった。耳抜きってすごい!耳が痛くないのが嬉しいのはもちろん、耳の痛みを克服したとなれば、もうどこへだって行けると思えることがまた嬉しい。

 

 人生三度目の大阪!キャリーケースを受け取り、電車に乗り込んだ。知らない地名がたくさん目に入って、旅行先に来たんだという実感があって楽しい。周りからは耳馴染みのない関西弁が聞こえてくる。

 人から来たLINEを返すのに気を取られて、さっそく乗り換えを間違えてしまった。明日行くはずの吹田駅になぜか降り立ってしまい、Yahoo!の乗換案内アプリを頼りに慌てて計画を立て直す。お昼ごはんの時間はとっくに過ぎていて、ケーキひとつしか食べていない胃が鳴っている。電車を待ちながら、「おなか吹田」と誰かに言いたい気持ちを堪えた。

 山田駅に辿り着き、モノレールに乗り換える。ホームからは、太陽の塔が小さく見える。実物を見たのは初めてだけど、政治家が誘致したがっている今度の万博の問題を思うと、さしてありがたいものでもない気がする。

 

 万博記念公園駅に着いた。駅のコインロッカーにキャリーを入れ、いざ念願の国立民族学博物館へ!公園の広さ、太陽の塔の巨大さに慄く。こんなにでかいんだ!さすがにお腹が空きすぎて、とはいえ1分でも多く博物館を見たいので、途中にあったキッチンカーでチュロスを買った。乗り換え間違いでロスした30分が痛い。注文して揚げてもらっている最中に、メニューに揚げたこ焼きもあったことに気付く。しまった、せっかく大阪に来たんだからたこ焼きにすれば良かった。でもたこ焼きは歩きながらは食べにくいだろうし、ごみを捨てられる場所があるかは分からないし…と己に言い聞かせる。揚げたてのチュロスは熱々でおいしく、博物館までの道程をせっせと歩きながら食べた。

 

 ようやく博物館の建物に入る。障害者手帳の提示で入館料が無料だった。博物館という施設が大好きなのでお金を払いたい気持ちも強いけど、使える制度は使っておきたいし、そもそも国立の施設なんだから入館料で賄おうとせず、こういう所にこそ税金をしっかり使うべきだと思う。

 企画展ではちょうど水俣病をテーマにした展示を行っていて、熊本県民としてあらためてしっかり見ておかないとと思った。

 展示室は知的好奇心を刺激される、素晴らしい空間だった。何もかもおもしろくて、興味深くて、あまりの楽しさに顔がにやけてしまう。マスクがあって良かった。

 

 順路の最初にあるオセアニアの展示がもうおもしろく、全然先へ進めない。アボリジニの「ドリーミング」という神話の世界に、強く興味を惹かれる。ユングの集合的無意識を連想した。

 

 次はアメリカ。マニオク(キャッサバ、タピオカ、ユカとも)やカカオ、パパイヤなどの食用作物の模型が展示してあり、自分が住む地域との植生の違い、食文化の違いがおもしろい。写真を撮り損ねてしまって悔しいけど、葉にコカインが含まれるコカ(コカノキ)の資料やキャプションもあった。

 

 「ペヨーテ・ビジョン」というタイトルのウィチョル族による毛糸絵を見つけた時は、ものすごく興奮した。これを見ることができたというだけで、はるばる大阪まで来たかいがあったと思った。ペヨーテがどういう植物かは知識として知っているし、なんなら自宅で4鉢育てているし、この絵に描かれているのがペヨーテを使用して得たビジョンだろうということも分かる。南米の先住民族の宗教的な儀式でペヨーテが使われるということを色々な本で読んではいたけど、文化の中で精神作用性植物が用いられている様子をこの資料を通して実際に見ることができて、本当に嬉しかった。

 

 ヨーロッパのエリアには、ヨーロッパ各地のパンのサンプルが展示してあった。食べ物に関する文化や歴史が好きだから、こういうものは大好きだ。一度ネットのレシピを見ながら作ったことのある、フィンランドのカルヤランピーラッカもあった。

 

 「陽気な墓」と書かれたルーマニアのお墓。私は自分の墓は欲しくないけど、もし墓があるならこういうユーモアのあるものがいいな。

 

 「ヨーロッパにおける宗教・信仰の系譜─ユダヤ教、キリスト教、イスラーム─」、分かりやすくておもしろい。プリントアウトして手元に持っていたいくらい。

 

 ヨーロッパの世界各国のさまざまな食器類。グラスが主で、アイルランドにはアイリッシュコーヒー専用のグラスまである。

 

 これが全部スイカの種!アフリカのコーナーにあった展示。

 

 西アジアのコーナーにあったおもしろい展示。左からユダヤ教、キリスト教、イスラム教のそれぞれの宗教に用いられる特徴的な道具などが並べられている。

 

 地域でなく「音楽」のコーナー。色々な楽器が管楽器、打楽器、弦楽器ごとに分けられている。これらは全てチャルメラの仲間!元オーボエ吹きとしてはどうしても見てしまう。ダブルリードの楽器が世界にはたくさんあるんだなあ。しかも、ダブルリードどころでなく、リードが6枚も重ねられた楽器もあるというから驚き。

 

 ここに来て、まさか熊本県八代市の楽器を目にするとは思わなかった。

 

 「言語」のコーナーに合った表。おもしろい。

 

 南アジアのエリアの影絵人形。まだまだたくさんあった。

 

 朝鮮半島のエリア。「巫俗文化」というものを知らなかったので、興味をそそられる。

 

 中央・北アジアの帽子や靴。

 

 アイヌ文化。小学生の頃に、好きだった児童文学に出てくる「削り花」というものを見よう見まねで作っていたので、実物をこんなにたくさん見ることができて嬉しい。

 

 日本文化のコーナー。注連縄って色々あるんだな。

 

 どの展示もとてつもなくおもしろかった!あまりに楽しくてわくわくして興奮しすぎて、体温が平熱より上がったようにさえ感じた。こんなにテンションが上がるとは思わなかった。時を忘れるという感覚が久し振りで、時間が全然足りなかった。楽しかった!

 陳腐な感想かもしれないけど、世界は広いと思えて良かった。世界は広くて、本当に多様な文化が存在し、自分の知らないことも無限にあって、現代の日本社会に適応できないという自分の悩みがちっぽけなものに思えてくる。苦しみを矮小化するというよりも、そんなに悩まなくてもいいのかもしれないと思えた。

 ミュージアムショップもまたおもしろかった。当たり前だけど、福岡市の某博物館のように百田○樹なんかのヘイト本を置いていないのが良かった。当たり前だけども。世界各地のさまざまな民族や文化に対するリスペクトがきちんと感じられる博物館だった。

 

 公園内の花壇には大株のクリスマスローズが満開だった。金がかかっているなあという感想を抱いてしまう自分がさもしい。花壇に花が植わっているのは、生活や住む環境を豊かなものにしようという気概がなんとなく感じられていいなあ。

 

 万博記念公園駅近くのショッピングモールで関西風お好み焼きを食べた。表面はさくっと、中はふわっとしていておいしい。普段家で食べるのは広島風なので、焼きそばと大量のキャベツが入っていないお好み焼きがとても新鮮に感じられる。関西風をちゃんとお店で食べるのは初めてかも。

 

 電車を乗り継ぎ、今夜泊まるホテルに着く。ホテルの傍にたこ焼き屋さんがあったので、これ幸いと買ってきた。焼きすぎたものと柔らかいものとどちらがいいかお店の方に尋ねられ、焼きすぎたもので大丈夫だと答えたので、しっかり焼かれた歯ごたえのあるたこ焼きになった。これはこれでおいしいし、「おおきに」と言ってもらえたのも嬉しい。

 旅先ならではのイレギュラーな出来事(乗り換え間違い)もありつつ、初日が終了。満喫した!今日一日の歩数は約16,200歩。若干靴擦れになりかけているので、明日は絆創膏を貼ってごまかそう。