苗床

菌床じゃないよ

大阪一人旅日記 その2

 旅行2日目。物理的に500km以上猫と離れたからか、家の外に脱走してしまったとらふくを泣きながら探し回る夢を見た。嫌な夢!

 朝ごはんは、大阪に何店舗かあるらしいパン屋さんで買ってきたパンをホテルで食べた。せっかくだからどこかカフェに入って食べることに挑戦しようかとも考えはしたものの、都会的なおしゃれな雰囲気に臆して食いっぱぐれる可能性も決してないとは言い切れないので諦めた。

 

 身支度や荷造りが思ったより早く済んだので、予定より30分ほど早く出発することにした。駅には通勤中とおぼしき人達が大勢歩いていて、みんな歩くのがものすごく速い。大阪の人は歩く速度が速いと聞いたことはあったけど、本当に速かった。その中でキャリーを引きずりながらのろのろ歩く九州人としては、道行く通勤客の通行の妨げになっているのではないかとやや申し訳ない気持ちだった。そのうえ、通勤ラッシュにぶつかってしまった!これは誤算だった。これまで経験したことのないような満員ぶりで、身動きひとつ取れず、他人との距離があまりにも近すぎて地獄だった。満員電車というものはひどいものだとつくづく思った。貨物のように車両に詰め込まれて運ばれていると、人としての尊厳がごりごりと削り取られるような心地がする。車を運転できないペーパードライバーとして、車がなくても生活できる都会に憧れてはいたけど、こんなものに毎日乗らなければならないような生活はとてもじゃないが無理だ。都会には都会の問題があることを思い知らされた。

 ほうほうのていで心斎橋駅に降りる。手前の本町で乗客の大半がごっそり降りた時は、思わず「助かった」と呟きたくなった。駅に直結のビルにあるパン屋(これも大阪にだけ店舗があるらしい)に向かうも、やはり駅の広さにびっくりする。都会の人間は田舎の人間に比べてよく歩くと聞くけど、確かにこれは歩くはずだ。植物園に持ち込んでお昼に食べるためのサンドイッチを購入し、また地下鉄に乗る。それにしても、多くの人がダウンやコートなどがっつり冬物の上着を着ている。いくら暑がりとはいえ、自分だけが薄着でいるような気がして少し恥ずかしい。でも全然寒くはない。なぜ。

 

 鶴見緑地駅で下車、コインロッカーが空いていて良かった。今度は鶴見緑地の敷地の広さに驚く。歩いても歩いても目的地に辿り着かないような気さえしてくる。

 

 でも辿り着いた!開館時間より早く着いてしまったので、近くのベンチに座って過ごす。その辺をうろうろしている鳩達がどれもまるまると太っている。いいものを食べているのかな。

 

 10時になり、館内へ。ここも障害者手帳の提示で無料だった。温室の中に入ると、温かくむしむしとした湿度があって、眼鏡が曇る。傘のように持って遊ぶ用のフィロデンドロンの大きな葉っぱが置いてあり、持ち歩きたい気持ちがかなり強かったけど、情けないことに一人でこれを持つ勇気がなく、植物の写真を撮るのにも手が塞がるかと思い断念。でもいいなあ。

 

 

 熱帯雨林植物室だったか熱帯花木室だったか、写真を撮りすぎてどの写真がどの展示室のものだったか分からなくなってしまったけど、とにかくどこも最高の空間だった!したたるような緑の葉が視界いっぱいに広がって、天井にはガラス越しの青空が広がり、歩いているだけで気持ちがいい。

 

 

 

 

 熱帯雨林植物室のそこかしこで、色とりどりの華やかな蘭が満開になっている。蘭ってこんなにたくさん花をつけるものなんだ、こんなに種類が豊富なんだと感嘆するばかり。

 

 

 バンダもカトレヤもこの咲きっぷり。なんて贅沢な眺め!

 

 キダチチョウセンアサガオも咲いていた!精神作用性植物好きとしてはテンションが上がるのを抑えられない。

 

 植物の名前を確認し損ねたけど、果実を見る機会はそうそうないであろう木に実が生っていて、緑色のネットで保護されている。

 

 カシワバゴムノキでもトックリランでもヤシの仲間でも、以前働いていた園芸店で見ていたものとは比べ物にならないほど大きい。ゆうに3mはありそうな、見上げるほどの高さがある。しかも、どれもいきいきしている。ポトスだかフィロデンドロンだかも小さなプラ鉢に収まっているような代物ではなく、地面いっぱいにつやつやとした葉を茂らせている。自生地に近い環境を再現してきちんと育てると、こういう風に成長するんだなあ。

 

 

 ウスネオイデスもコウモリランも、本当に大きい!こんなに大きくなるんだと驚くほど大きい。

 

 青い種子が入った枯れたさやしか見たことがなかったので、タビビトノキの全貌を拝めて感動!天井に届きそうなほどの樹高がある。これ以上成長したらどうするんだろう。

 

 ヒスイカズラや竜血樹、モリンガのように名前は知っていても実物を初めて見る植物、キソウテンガイやキヤニモモ、キャンドルナッツツリーといった名前も存在も知らなかったような植物が無数に育っている。図鑑でしか見たことのなかった植物、初めて知る植物といくらでも出会える。最高!クフェアでもペトレアでもコトネアスターでも、園芸店で毎日水やりをしていた植物が、ポット苗を飛び出して元気いっぱいに茎や枝を伸ばしていている。ヒスイカズラに至っては、つぼみのようなものさえ見える!

 写真を撮る手が止まらず、カメラアプリをずっと起動し続けているので、スマホがどんどん熱くなっていく。

 

 本当にカレーの匂いがする!スパイシーでおいしそうなカレー粉の香り。カレーを食べたくなる。

 

 好きなドラマ「植物男子ベランダー」に出てくるカリアンドラ・エマルギナタ!一鉢の植物を巡って植物しりとりで熱い闘いを繰り広げる際に強力な一手として使われていたカリアンドラ・エマルギナタ、まさかその実物を拝めるなんて。

 

 

 いつか本物のカカオの木を見てみたい、あわよくば木に生っているカカオの実を見てみたいと思ってきたけど、まさかこんなにたくさんの果実を見ることができようとは。こんな幸せなことがあっていいんだろうか!国立民族学博物館で木の模型を見ただけでも楽しかったのに、こんなに立派な木にいくつもの実をつけているのを目にして、もう大はしゃぎしてしまっている。嗜好品として利用される植物、豊かな文化史を持つ植物、人類の歴史や文化の中で大きな役割を果たす植物、大好き!

 

 スーパーのスパイス売場で600円ほどのさやしか見たことがなかったバニラ!植物そのものを見るのは初めてだし、茎に生っている実の香りを嗅ぐのも初めて。きつすぎない、おいしそうな甘い香りがする。家で育ててみたいなあ。

 

 マカダミアナッツの花も満開。どんぐりや栗によく似た花だけど、とても大きい。

 

 

 

 

 バナナにジャックフルーツ、パパイヤ、パイナップル、スターフルーツ、ミラクルフルーツまで実っている!パパイヤも昨日の博物館で模型を見たな。実際に見るジャボチカバのグロテスクさに怯むことさえ楽しい。

 

 乾燥地植物室。トゲだらけのサボテンが大量に植えてあり、絶対にここで転びたくない。ここならもしかしてサンペドロ(ペヨーテとは違う幻覚サボテン)もあるんじゃないかと探してみたけど、それは見つけられず。でもあってもおかしくないと思う。

 

 

 クセロシキオスもアルブカも、自分が育てている鉢植えのものよりもずっと株が大きくて威勢が良い。こういう風に育てるのは難しいだろうけど、もし自分の鉢がこんな大きさになったら管理が大変そうだ。

 

 

 食虫植物も豊富。ウツボカズラはたくさんのウツボット(ポケモン)をぶら下げているし、ムシトリスミレもいくつもの花を咲かせている。

 

 高山植物室に入ると、また別世界。熱帯植物の温室よりも涼しくて快適。

 

 

 

 

 ムスカリ、チューリップ、水仙、アネモネ、プリムラ、シクラメンなどのごく小さな原種がちまちまと植わっていて、ミニチュアのようでとてもかわいい!

 

 エーデルワイスもすぐそこに咲いている。コマクサでもクロユリでもチングルマでも、高山に登らずしてこんな気軽に見られていいんだ…。

 

 いちごだ!「Fragaria SP チベット」のラベルがある。チベットのスペシャルいちご?



 

 温室の外にも庭園があり、植物が植わっている。アカシアが満開!巨大なアボカドやボトルツリー、ジャカランダもあった。

 

 

 テキーラの材料になるリュウゼツラン!いつか見てみたいと思っていた植物が何でもある。

 

 2階にはフォトスポットがあり、熱帯花木室全体を見下ろして写真を撮ることができる。いい眺めだなあ、この写真をパソコンのデスクトップにしたいなあ。植物と一緒に写りたくて、勢いでこっそり自撮りまでしてしまった。

 結局、展示室は2周した。夢みたいに楽しい場所で、終始にやつきが止まらなかった。世界にはまだまだ私の知らない植物がたくさんある。お昼は館内のカフェでハイビスカスとブラッドオレンジのソーダを注文し、持参したサンドイッチを食べた。広場にもヤシなどが植わっていて、大きな植物を眺めながら食べるごはんっておいしい。ミュージアムショップには植物モチーフのかわいい雑貨が色々あった。ショクダイオオコンニャクの花を模した大きな抱き枕があって、買おうかかなり迷ったけど、臭そうという理由でやめておいた。ぬいぐるみなので臭いはしないと思うけど。

 植物園を出て、鶴見緑地駅へ。緑地内には結構な本数のクスノキが植えてある。毛虫対策が大変そう。

 

 プラタナスのような実が生った、メタセコイアに似た木。落羽松(ラクウショウ)という植物らしい。知らない植物に出会ってももう驚かない、ということはなく、やっぱり驚く。

 

 地下鉄と特急を乗り継いで、その間にまた乗り換え間違いをやらかしながらも、なんとか空港まで辿り着くことができた。途中に、同じく乗り換えを間違えたらしい年配の女性に電車のことで尋ねられ、次の電車を待ちながらおしゃべりをした。「あなたみたいに若い人も乗り間違えると思うと安心した」と笑っていて、私も笑った。話の流れで、おすすめのカレーのレシピまで教えてもらえた。流暢な関西弁を聞けたのはもちろん、旅先で出会った人と挨拶以外のたわいない会話ができたのが嬉しかった。

 空港のショップでおみやげを見繕う。調子に乗ってキャリーケースの空いた部分に入りきらないほど買ってしまったので、機内持ち込みのトートバッグに無理やり捻じ込む。

 さらば大阪!またいつか来たい。

 

 またしても羽の部分の座席を選んでしまっていた。今後の教訓として活かしたい。帰りの飛行機では居眠り。降下し始めてからは耳抜きをし、耳の痛みをちゃんと防げた。

 

 ただいま九州!空港にある蘭の寄せ植えを見て、咲くやこの花館の楽しさを思い出す。

 

 高速バスを待つ間、昨日行き損ねたロイヤルホストでシーフードドリアを食べた。自分では作れない味がしておいしかったけど、いかんせん熱くて、下と上顎を軽くやけどした。このひりひりした痛みは翌日まで続いた。

 市内の渋滞で25分遅れでやってきたバスに乗り、旅行の帰り道ならではの寂しさを噛み締める。楽しかったなあ。行こうと思えば(国内なら)多分どこへでも一人で行けること、世界が広いことが分かって良かった。電車を乗り間違えても計画を立て直して目的地に辿り着けたこと、耳抜きをして飛行機で耳が痛くならずに済むようになったこと、知らない人にものを尋ねられて応答できたことなども、ささやかな自信に繋がった。ちなみに、この2日間の旅行中に、3人の人からバスや電車について訊かれた。この人にならものを尋ねても大丈夫だろうと判断されて声をかけてくれたのかもと思うと、こんな光栄なことってないと思う。

 高速バスを降りてタクシーに乗り、自宅へ帰り着いた。父母は演奏会を聴きに出かけていて、猫達が出迎えてくれた。荷ほどき9割とお風呂と洗濯を済ませて、パジャマに着替えるとほっとする。今日の歩数は約12,500歩。楽しい旅行ができて本当に良かった。

 

 博物館と植物園で自分用に買った物。めったに来られる場所じゃないからと思いきって色々買った(ショクダイオオコンニャクの抱き枕を除く)。国立民族学博物館の展示案内、『月刊みんぱく2024年2月号』、オリジナル測量野帳、グアテマラのウォーリードール、ヒエログリフが書ける定規、アイヌ文様マスキングテープ、いつか読みたいと思っていた『キノコの歴史』、咲くやこの花館オリジナルの植物画Tシャツ、ショクダイオオコンニャクのキーチェーン、食虫植物のイラストが描かれたハンカチとクッキー。

 

 植物画のイラストがとてもかわいい!どれも咲くやこの花館にある植物だそう。

 

 博物館と植物園では、写真を200枚超ずつ撮った。これから写真を整理して、どれがどこの地域のどういう資料か、何という名前の植物かなどのメモを残す作業がある。心理学の勉強ができなくなった時、自分には何かを学ぶことがそもそも向いていないのだ、もしくは今の自分にはもうできないことなのだとかなり落ち込んだけど、今回博物館と植物園に行ってみて、趣味の範囲でも知的好奇心をもって何かを知ることを楽しめたので本当に嬉しい。旅行をしてみて良かった!